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アニメ映画『ウルフウォーカー』について語る|小ネタ・感想

映画カートゥーンサルーンアニメ

長編アニメーション映画『ウルフウォーカー』。

それはアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーンが制作した<ケルト3部作>の集大成にふさわしい映画です

<ケルト3部作>については、以下の記事で紹介していますの。ご参考までに。

正直、上記の記事(↑)で『ウルフウォーカー』の魅力は十分に紹介しました。

ネタバレなしという制約を取っ払い、

上記の記事で語ることができなかった小ネタと集大成にふさわしい魅力、感想を語ります。

以下、ネタバレ注意!!!!

作品概要

あらすじ
舞台は1650年アイルランドにある町キルケニー。

森に棲むオオカミを退治するためハンターである父とともに町に越してきた少女ロビン。

ある日、ロビンは不思議な少女メーヴと出会う。

彼女はウルフウォーカーだった。

キャスト
ロビン役:オナー・ニーフシー/新津 ちせ
メーヴ役:エヴァ・ウィッティカー/池下 リリコ
ビル役:ショーン・ビーン/井浦 新
護国卿役:サイモン・マクバーニー/西垣 俊作
モル役:マリア・ドイル・ケネディ/櫻井 智

KUMA
KUMA

もれなくみんな英国訛り1だし、
特にエヴァちゃんのハスキーボイスと訛りが最高だから、ちょっと字幕で観てほしくはある。
オナーちゃんもエヴァちゃんもキャラと声合いすぎなんだよなぁ~。

スタッフ
監督・原案:トム・ムーア&ロス・スチュアート
脚本:ウィル・コリンズ
音楽:ブリュノ・クレ, KiLA&Aurora
アートディレクター・プロダクションデザイナー:トム・ムーア, ロス・スチュアート&マリア・パレハ

小ネタ

映画の舞台キルケニーとの関係

映画の舞台であるキルケニー(アイルランド)とカートゥーン・サルーンには

深~~~い関係があります。

カートゥーン・サルーンの所在地は、なんとキルケニー!!!

さらに共同監督のロス・スチュアートはこのように語っています。

Since the village in the film is based on Kilkenny, where Cartoon Saloon is based, the filmmakers did include some elements that were personal. Reveals Stewart, “We were sure to sneak in a few establishments that we frequent in the backgrounds and people that we know in the backgrounds.”

Q&A With ‘Wolfwalkers’ Directors Tomm Moore, Ross Stewart – The Hollywood Reporter

よく行く施設や知り合いを映画にこっそり登場させているようですね

これはキルケニーを映画の舞台に選んだからこそできる遊び心ですね。

ウルフウォーカー好きとしては、死ぬまでにキルケニーを訪れてみたいです。

元ネタ

『ウルフウォーカー』の元ネタには2つの要素があります

Stuart:
The part about wolf humans is based on legend. There is a legend in Kilkenny that once a family was transformed into a wolf while sleeping by the blessing or curse of St. Patrick. I made a story around this legend. However, the story of characters such as Robin and Medb was created separately from this legend.

Completion of Celtic trilogy following ‘Wolfwalkers’ director interview, ‘The Secret of Kells and Brendan’ and ‘Song of the Sea Umi no Uta’ – GIGAZINE

共同監督のロス・スチュアートによると

キルケニーに伝わる、寝ている間に狼に変身した家族の伝説が元ネタのようですね

引用内に出てくる聖パトリックは、他にも多くの伝説とともにその名が知られています。

聖パトリックについて

パトリキウス – Wikipedia

そしてもう1つの元ネタについて、共同監督のトム・ムーアが言及しています。

Moore:
In the original legend, there was no element such as ‘Wolf humans increase the number of wolf humans by biting other humans.’ There, resulting in the people you bite to cognate, German Werewolf of incorporating the elements of the legend has become a cornerstone of this work.

Completion of Celtic trilogy following ‘Wolfwalkers’ director interview, ‘The Secret of Kells and Brendan’ and ‘Song of the Sea Umi no Uta’ – GIGAZINE

ドイツの人狼伝説の要素(嚙むことで人狼に感染する)を映画に加えたそうです


さらにスコットランドにかつて住んでいたピクト人のタトゥーや紋様からもデザインのアイデアを得ているようです

Stewart: We were also looking at Pictish tattoos and Pictish markings to show that the wolfwalkers had been around for a long, long, long time.

Cartoon Saloon’s Tomm Moore, Ross Stewart discuss ‘Wolfwalkers’ (variety.com)

ウルフウォーカーが古くから生息していたことを暗に示したかったようですね。

これ(↑)はピクト人が残した石碑(石柱)のようです。

確かに、作中で発せられる光とどことなく似てますね

ピクト人について

ピクト人 – Wikipedia

ピクト語 – Wikipedia

ロビンと護国卿のモデル

主人公ロビンにはモデルがおり、それが環境活動家のグレタ・トゥーンベリです

Moore adds of Robyn: “She’s the kind of strong, activist, outspoken young person that we are inspired by — think of Greta Thunberg or somebody like that. She’s the kind of powerful young woman I  think the world needs at the moment and that we are all going to turn to as the years go on.”

Q&A With ‘Wolfwalkers’ Directors Tomm Moore, Ross Stewart – The Hollywood Reporter

10代の少女の行動力とそれを支える性質を主人公ロビンの人物描写のエッセンスとして取り入れたのでしょう。

グレタ氏に関する補足・注意

グレタ氏逮捕のニュースを受け一応補足しておきますが、元記事は2021年1月公開。
グレタ氏が国連でスピーチを行ったのは2019年9月(彼女自身が活動を始めたのは2018年ごろ)。
ムーア監督が彼女の活動をどの程度支持しているかは不明なので悪しからず。


さらに作中ヴィラン的立ち回りをみせる護国卿にもモデルがいます

役職名でピンと来た人もいると思いますが、世界史では割と有名なオリバー・クロムウェルです。

Stuart:
I think it’s a very interesting question. Lord Protector is modeled after Oliver Cromwell. Cromwell is a pretty violent person who killed many people in the name of ‘civilizing Ireland’. But from the other side, especially from the British side, he is considered to be the driving force behind the democratic nation, even a statue standing in the center of London. So, a person who is a hero to one person can be a villain to another person, and whether or not he is a villain depends on how he sees things, and for himself he is a hero. Or it could be a hero from the perspective of others. I think that similar problems can be seen and hidden in modern politics.

Completion of Celtic trilogy following ‘Wolfwalkers’ director interview, ‘The Secret of Kells and Brendan’ and ‘Song of the Sea Umi no Uta’ – GIGAZINE

ロス・スチュアート監督のこの意見は非常に興味深いです。

ロビン達からすれば悪の権化ですが、狼を恐れる民衆にとっては確かにヒーローですね。

作画の秘密

Moore: The town is based on wood block [art] and things from the time which are pamphlets that were being distributed — it was the early version of fake news and the internet, they were just printing these pamphlets distributed in England saying how awful the Irish were. Some of the wood block was beautiful, but there were some really crude ones as well that they just bashed out. And that was kind of what we looked at for the town. We had this idea that we could create a kind of geometry and you know, if you make a print and it kind of slides off the picture, the color is a little bit offset from the lines. So we tried to do that. But then in the forest, it’s much more organic and you know, watercolor splashes and really sketchy lines and random shapes. So really just trying to build a contrast between the two.

Cartoon Saloon’s Tomm Moore, Ross Stewart discuss ‘Wolfwalkers’ (variety.com)

町並みは木版画からアイデアを得たそうで、美しさと粗さが混在しているところに目を付けたみたいですね。

一種の幾何学模様(おそらく街並みの下書きのことを指す)をつくってから、プリント(刷る)するときに少しずらすといい具合に枠からはみ出るそうな。

アーティスト Clara de Frutos との出会い

彼女との出会いが町並みの背景作成において大きな要素だったようですね。

Instagram
Tomm Moore & Clara de Frutos


森に関しては、水彩画で描き、さらにはスッケチラインを残し(木々に)ランダムな形を採用したようですね

そして、町並みと森のコントラストを生み出したそうです

KUMA
KUMA

他にも、森は流動・曲線を意識し、町は四角形・直線を意識していたそう。

キャラクターデザイン・感情表現においてもこのような形状や対比を意識していたようですね。2

さらにはいくつかの作品から作画のアイデアを取り入れているようです。(文脈や作品内容からおそらくストーリーではなく映像に関する影響だと思われます。)

For the filmmakers, a larger influence was actually a different Ghibli title, The Tale of the Princess Kaguya, about a tiny girl found inside a bamboo stalk. “I always remember that was like laying down the gauntlet for how far you could go in terms of expressiveness with the drawings,” Stewart remarks.

Talk of “the next Ghibli in town” has helped drum up buzz for Cartoon Saloon over the years, but Ghibli is as much of an influence on Moore and Stewart as, say, the French animated film Ernest & Celestine, graphic novels, the Disney classic 101 Dalmatians, and even Spider-Man: Into the Spider-Verse

Wolfwalkers makers are giving everything they’ve got (ew.com)

記事内で触れられている作品としては『かぐや姫の物語』(2013)、『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(2012)、『101匹わんちゃん』(1961)、さらには『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)

KUMA
KUMA

特にジブリの影響はスタジオ全体を通して大きいようですね。
『ウルフウォーカー』の内容自体は『もののけ姫』の影響も大きいようですね。

感想

『ウルフウォーカー』は<ケルト3部作>の集大成となる作品です。

僕は、この作品が歴史に残るような魅力の詰まった素晴らしい映画だと思います。

まぁ前掲の記事では語れなかった魅力を語って、改めて『ウルフウォーカー』って面白いよねって言いたいだけです。

作画がとにかく良い

作画がとにかく良いということで、とりあえずこれ(↓)見て

あああああああああ幸せ・・・・。眺めてるだけで癒されますよね?

水彩画独特の優しさと柔らかさ枠に囚われない自由で豊かなカラーリング

しっかり残った線がこれまた良い味出してる

木漏れ日の差し方、影、葉っぱとか草の質感がとんでもない。

これ以上の大地と森の作画に出会える気がしない。

リアルではないですがファンタジックさが魅力だと思います。

ケルト三部作の集大成

今作はそれまでの2作になかったようなエッセンスが組み込まれています。

そのおかげで映画としてワンランク上の仕上がりになっていると思います。

画面分割を使ってみたり決闘シーンでの目元へのクローズアップ

影が迫ることで恐怖を演出してみたり、アスペクト比の変更への試み、

狼の群れの一体感など多彩なアイデアが詰まっています


そしてなんと言っても印象に残るが多いように感じました。

例えば、

夕日をバックに猛るメーヴの遠吠え、直前の荒々しいセリフも含め完璧です

また、護国卿との決闘シーンでは滝をバックになんとも緊張感のある場面でした

上にあげた例では、画の見応えという要素を除けば必要性があるとは言えません。
そこに制作側の意志、つまり作為性が感じられます。

構図や表現技法で印象的な映像表現を生み出していて、これこそ映画的な魅力だと思います。

こんな具合に本作は見所が多いわけですが、1番の名シーンを忘れてはなりません

作中屈指の名シーン

作中屈指の名シーンと言えば

ウルフヴィジョンとそのあとに続く一連のシーンですよね

Aurora の完璧な曲と完璧な作画・映像!

このシーンは何というか得も言われぬ自由を感じます

月明り照らす緑豊かな森を仲間と共に駆け回る、

そこには性別というしがらみも家族というしがらみも何もない、

頭を空っぽに、みなぎるパワーと自由な心に身を任せて走り抜ける、

爽快感と無敵感が心地よい。

映画史に残る名シーンです!

少女の戦い

本来ハンターと狼は相いれない関係でありながら芽生えた友情、ロビンとメーヴ(+マーリンと狼ちゃん達)が楽しそうにしているのを観てるだけで僕は大満足でした。

メーヴのためとはいえ、町の子供をけしかけ檻に閉じ込めさせるところは胸が痛みました。

ただその後、勇気を出して父や護国卿に立ち向かった時の迷いのない真っ直ぐな表情には目頭が熱くなりました。

ロビンと父の親子愛もくぅ~~~~ですね。

主人公のロビンの成長、アドベンチャー、かけがえのない友情、親子愛といったザ・王道の要素が多いですが、いや多いからこそ非常に見応えがあります。

では、もうちょっと深いところについて語りましょう。

意外と深い視点

子供向けなことは間違いない本作ですが決して浅い作品ではないと思います

というのも自然保護フェミニズム的視点キリスト教の歴史が取り入れれれていると思うんですよね

自然保護については言うまでもないでしょう。作品を観れば伝わってきます。

自然を破壊する側に属していたロビンの視点から、メーヴ達被害者への視点転換が秀逸です。
護国卿を完全に悪と捉えるかは人によります。

2つ目のフェミニズム的視点も作中におけるロビンの立ち位置から分かるかと思います。

(ロビン父は異なる考えを持つようだが)護国卿に言わせれば「女の子は室内で従事すべき。」であり、ロビンとしてはハンターをやりたい。

どのようにそこからロビンが抜けだすかというのが描かれていますよね。

KUMA
KUMA

フェミニズムと聞くと悪いイメージを持つ人がいるかもしれませんが、文字面だけで本作を判断しないよう願います。

キリスト教の歴史も今作ではなぞっていますよね。

土着の信仰・伝説を、キリスト教の使者である護国卿は異端と判断しました。

人類の歴史のひとつの側面、キリスト教による破壊的な視点を取り入れているのも作品をより一層深くします。

ラストをどうとるか?

ロビンとその父がウルフウォーカーになり、メ―ヴ達と共に新たな森に到着するというところで物語は結末を迎えます。

この結末、どうですか?

キリスト教の流入とともに元々根付いていた信仰は薄れつつある。

その結果、”人間の見当たらない” 森への移住を強いられたという構図ですよね。

さらに、自然を破壊する側についていたロビン達は完全に自然側へと身を置くことになります。

『もののけ姫』のようにそれぞれの居場所で生きるという、ある点での妥協点を見つけ、共生を達成したとは言い難いラストです。

ハッピーエンドではあるものの、俯瞰ふかん的視点で見るこの結末はどこか寂しいようにも思えます。

自然との共生は難しいのでしょうか?

まとめ

『ウルフウォーカー』は過去2作に比べ、以上のような多彩なアイデアが詰め込まれていたと思います。

その点で、『ウルフウォーカー』は集大成としてふさわしい大傑作だと思います。

英文記事は読み違い等ありましたら申し訳ありません。
決して故意ではありませんのでご了承ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


  1. 英国訛りのように聞こえたのですが、もしかしたらアイルランド訛りかもしれません。そこまでは聞き分けられないです。両者は大きく違わないそうですが。アイルランド英語の特徴と訛り | スクールウィズ (schoolwith.me) ↩︎
  2. Blue-ray BOXに収録された特典映像「デザインプロセス」より。 ↩︎

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