チェコ映画の『マルケータ・ラザロヴァー』を観ました。
本作は何でもチェコ映画の最高傑作なんて言われてるそうですが、その名に恥じない傑作でした。
もちろん最高傑作かどうかは人によりますが
原作は「映像不可能」と言われた同名小説。
それを映画化したわけなんですね~。
本作が公開されたのは半世紀以上前の1967年、日本公開はその55年後である2022年・・・・。
2023年6月発売の円盤を入手しました。
間隔開けて2回観ました。
ということで、今回は『マルケータ・ラザロヴァ―』の感想を書いていきたいと思います。
あらすじ
時は13世紀ボヘミア王国(現在のチェコ)、
盗賊まがいの行為を行うロハーチェック領主コズリーク(子沢山の怖いおじさん)。その息子の1人ミコラーシュ。
ロハーチェックの隣にあるオボジシュテ領主ラザル。その娘マルケータ。
盗賊行為が災いとなり、コズリーク一家は王に目を付けられる。
中世の動乱、血と蛮行が彼らを呑み込んでいく。
何言ってんだ?って感じのあらすじですよね。
物語が結構複雑なので、
個人的にちょっと分かりにくかった部分を入れてあらすじを書きました。
一応、ミコラーシュとマルケータが主人公だと思います。
感想
本題に入る前に、以下のツイートからも分かるように、
本作は圧倒的な執念が創り上げた大作です。
僕はこのエピソードを知り、この映画の底知れぬ力強さ納得しました。
まず、はじめに言っておきますが、この作品を数回観た程度で完璧に理解するのは難しいです。
自分なりにキャラクターの心情を想像して理解するしかありません。
キャラは割と多いし、顔は覚えられないし、時折時間が前後するので難解です。
理解しやすいように大方の展開を事前に教えてくれるように工夫はされていますが
今作は中世の血生臭い蛮行の数々と頼り続けた信仰、
そして彼らが見つけた愛の物語。
とでもまとめておきましょう。
話自体はコズリーク一家と国王勢力の抗争です。
戦闘シーンは期待しないでください。
黒澤作品やリドスコのような歴史モノではないです。
そこは残念でした。
映像(モノクロとカメラワーク)
まず映像が素晴らしい。
今作は所謂モノクロ映画です。
僕はモノクロ映画が好きなので、今作もそれだけでだいぶ評価は高いです。
ロケーションとモノクロの相性が良すぎる!
自然×モノクロの真骨頂と言いましょうか。
舞台は厳冬期なので雪が一面積もっています。
雪とかずるいくらいきれいなんですよ。
太陽光、狼、鳥、空、森、草木、時々衣装などなど。とにかく綺麗。
映像から感じる力はものすごかったです。
カメラワークについて触れておきます。
正直、妙に近かったり、変な視点、カットも多く苦手だなと思っていました。最初のほうは
慣れた時に気づきました、カメラワークこそが、本作の映像的魅力の神髄だ!👉
キャラの追従、アップとルーズ、引きや接写、そして1人称視点。
1人称視点以外は、特別なことはしてないんですが、
組み合わせ方次第でこんなに記憶に残る映像になるんだなと学びました。
僕は観やすいという理由で、引きの映像が好きなんですが、
本作でアップの映像も良いなと思いました。
① 役者の表情を映し、心理状況を視聴者に想起させること。
② 全体像が曖昧になることで、不安や情熱など激しい感情を視聴者に与えること。
本作は一連の出来事の中で登場人物たちの心理状態を推し量ることが求められます。と思います。
アクションを楽しむような作品ではなく、
かといって心理状態を伝える描写やセリフが分かりやすいとは言えません。
だから、自分なりに解釈しなければなりません。
そのため役者さんの顔をアップした映像の多用と
作中数度用いられた1人称視点(POV)の役割は大きいです。
POVを最初観た時は戸惑いました。
脈略もなく切り替わるのでこの映像はナニ?という風になりました。
しかし、1度その映像になれると
その人物が何を・どう見るか、何が・どう見えているかが気持ち悪いほど伝わってきます。
ミコラーシュの復讐 ~束の間の幸せから地獄へ~
マルケータの修道院訪問からミコラーシュに連れ去られるまでの一連のシーンがちょっと良すぎる。
1番残酷なシーンだと個人的には思います。
修道院から城への帰路で、父娘水入らずの幸せな時間を過ごすラザル親子。
跡継ぎ問題や貧困など悩みはあるも、マルケータとの幸せな時間に思わずこのように発言する。(↓)
神は時に人から奪い 時に人へ与える
©1967 The Czech Film Fund and Národní filmový archiv, Prague / 『マルケータ・ラザロヴァー』
・・・そして、与えてから奪いもする・・・・。
門を開けるとそこにはミコラーシュの姿が・・・・。
幸せから、急転直下・・・・地獄へと・・・・。
必死に良心に訴えかけるラザルと”慈悲”をみせるミコラーシュ。
展開の緩急もそうですが、ミコラーシュの badass っぷりが凄い。
背筋がゾクッとしました。
恋と信仰
話の中心となるのが恋と信仰です。
不幸な少女マルケータ
マルケータは純真無垢で信心深い少女で、悪とは無縁の人生だったでしょう。
抗争に巻き込まれ人生は一変します。
父の悪行と信仰の歪曲に対する疑念。
誘拐と強姦。
事件がひと段落して家に帰れば父に拒否され勘当される。
その後駆け込んだ修道院で(おそらく贖罪の為に)修道女たちに従い祈りを捧げるが・・・・。
シンプルにかわいそう・・・・。
少女の恋
はっきり言って、マルケータのミコラーシュへの恋は限りなくストックホルム症候群に近いです。
そして、ミコラーシュへの想いは愛憎の念が入り混じっていると感じます。
ミコラーシュに乱暴され憎んだことは間違いないと思いますが、
それと同時にコズリークから守ってくれた彼に恋をし、愛したのも事実。
観ている側としては複雑ですが嫌いじゃないです。
マルケータに待つ運命
終盤が難しかったです。なんとなくで解釈しました。
具体的なことは理解できませんでしたが、
修道女たちの祈りを聞く中で、マルケータの信仰への疑念が確実なものとなったのでしょう。
正確には信仰の仕方の否定かなと思います。
偽善的な信仰の仕方についていけなくなったのかな。
羊連れの修道士もそうですが、神を信仰していると言いながら、
それにふさわしい言動とは言えない姿に嫌気がさしたのか、なんなのか。
僕の体感としては、罰を与えるように訴える祈りの内容に異を唱えているのかなとも思います。
祈りと同時にミコラーシュが追いつめられる様子が映し出されていますし。
「こいつらなんも分かってねーわ、素人が」って感じなのかな?
結論・・・わからん。
ラストの結婚式のシーンは悲しくも素敵だと思いました。
今際の際に愛する人と結ばれた・・・・が、死は孤独とともに訪れることは変わらなかった。
淋しいラストだと感じました。
また、この時のマルケータの感情もうまく読み取れず考察の余地があります。
マルケータは子どもを授かり前向きに物語は締めくくられるかと思いきや、
不安を残すと言うか、
愚かな人間の営みの繰り返しの虚しさと言うか・・・・。
音楽・・・・と衣装
本作は<フィルム=オペラ>という作品・・・・らしい。
壮大なオペラが劇中何度も出てきました。
あんまり詳しくないですが、作品の雰囲気とマッチしていて良かったです。
変にエンタメ色が出ないからいいと思います。
音楽のおかげでちょっと不気味な雰囲気出ますよね。
先ほども言及しましたが衣装が素晴らしいです。
おそらく忠実に再現されているでしょう。
歴史映画(史劇、時代劇)においてリアルっぽい衣装は作品に没頭するうえでめちゃくちゃ重要なので、
絶妙なズタボロ感と貧相な感じは120点です。
衣装とか武器は当時の素材と製法で作られているそうです。
衣装担当はテオドール・ピステック。
そして作中二大衣装とそれに対する反応を見納め下さい。
(注)非常に取り乱しております。
画像引用:Twitter
https://twitter.com/m_lazarovajp/status/1552475691978895361?s=20
https://twitter.com/m_lazarovajp/status/1556506061430878209?s=20
アレクサンドラ、お前はなんや
アレクサンドラが1番ややこしい。
なぜクリスティアンを手にかけたのか。さっぱりわからない。
はたまた彼女は魔女的な何かなのか?
アダムと交わった大樹の不気味な装飾、
隊長一行が(大樹に)近づいたときに馬が暴れまわったことと関係するのか。
アレクサンドラだけは全く何を考えているのか理解できなかった。
クリスティアンと言えば、戦闘後のさまよい歩く一連のシーン、
モンタージュが素晴らしかったことだけ最後に言って締めくくろう。
チェコ映画最高傑作の名は伊達じゃない。
同監督の『蜂の谷』も観たいですね。早く日本に上陸してくれ!
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