過去2回にわたりブライス・ダラス・ハワード監督作を追ってきました。
過去2回を通して彼女の作風、それを可能にする女優としての経験、『Dads 父になること』の重要性を明らかにしてきました。(そんなたいそうなものではないが)
今回は彼女の代表作と言っても良いスターウォーズの回です!!!!
彼女がスターウォーズ(以下SW)に関わるのは運命というか宿命というか、それはまた別の機会に。
ドラマの評価は難しいです。
マンダロリアン自体は超級の面白さですし、ブライスが監督した回はめちゃくちゃ面白いと思います。
世間的な評価も高いです。
監督がブライスと分かれば「確定で神回じゃん!」と言う意見が飛び交います。
(赤べこぐらい激しく同意しますね)
毎回監督が変わるのが主流の海外ドラマで、はたしてどれだけ監督の色が出るのか疑問に思います。
脚本やシリーズを統括する人(ジョン・ファブロー)は別にいるわけでその人が流れを決めているとすると、展開や重要なシーンっていうのは監督の領分じゃない気がします。
つまりブライスが評価されたのは当たり回を担当したからなのでは?という疑問が頭に浮かびました。
実際にシーズン3の担当回に関しては他の担当回に比べて微妙な印象を受けました。
ブライスの「監督」としての顔を知るには難しい作品ってことだね。
ではここで今回の記事の目的を明確にしていきましょう。
自分の色が出しにくい海外ドラマ1話分の中にどれだけブライスらしさが出ているのか?
反対に監督としての新たな一面はあるのか?
SWシリーズに関わった経験の意味とは?
以上の3点に注目してブライスの監督作としてSWドラマシリーズを再考していこうと思います。
ドラマシリーズ再考
マンダロリアン S1 チャプター4「楽園」
IMDbでは7.7を獲得。(2024年6月時点)
ブライスにとっては本格的なアクション作品を監督するのは初のはずです。
この回はどこか黒澤明監督の『七人の侍』を思わせる話でしたね。
それでいてブライスらしさがタップリでした。
ブライスらしさ
1番は村の雰囲気、そして村人の女性と主人公の交流ですね。ブライスらしさが表れていたのは
温かい雰囲気を作り出す業や主人公の細かな感情の機微を上手く描いていたと思います。
彼女に掛かればこのくらいお手の物ですわ。(鼻高)
光の具合がビジュアル的にそそられました。
凄い絶妙で、光の角度も周囲の自然や木造建築とのコンビネーションも際立っていたなと感じました。
空のカットや村をロングショットで写したカットを入れるところに僕はニヤニヤしました。
細かいけど大好きです。こういうの
この回の私的MVPは村人の女性オメラを演じたジュリア・ジョーンズです。
キャラ・デューンとは対照的な”女性らしい”雰囲気が全開ですが、その反面射撃の腕や勇敢な姿も映すことで何とも強烈なキャラクターだなと思いました。
表情の見えない主人公の感情を表す(引き出す)大きな役割を果たしていたのも彼女です。
シリーズトータルでみた時、出演時間の短さに対してこのオメラのインパクトは大きいですよね。
新たな一面
初のアクションということでテンポの良いアクションだったという印象です。
”普通に”見ごたえがあるって感じかな。
それでいうとAT-STの登場はベストシーンでしたね。
まるで怪獣映画のシークエンスからインスパイヤを受けたかのような登場シーン!
目一杯引き付けて森から姿を現し、「あ、ヤバいわ」と圧倒的な脅威として描き出す演出には脱帽です。
こんなシーンを撮れる、もしくは撮る方法を学んだならまじでSF大作いけると思うんですよね。
マンダロリアン S2 チャプター11「後継者」
IMDbでは8.7を獲得(2024年6月時点)。
アニメシリーズのキャラクター、ボ=カターン・クライズが実写化された記念すべき回です。
ブライスらしさ
ブライスらしさというのは中々見つけにくい回でしたが、
カエル夫婦の再会シーン、海上船から飛び立つ美しい夕日のシーン、これは非常にブライスらしい描写でした。
再会時のエモーショナルなカメラワークと音楽、着ぐるみなのに妙に感情が伝わってくる。
夕日のシーンは無意味な描写のような気がします。
わざわざ夕日にする必要性はないが「画になるから」という理由だけがあのシーンが存在しているのではないでしょうか。(いいぞもっとやれ)
しかしアニメシリーズの人気キャラボ=カターンの初実写化を担当したことには何かジョン・ファブローの思惑があるような?
新たな一面
アクションは奥が深いと思いましたね。
熟練の戦士(マンダロリアン)によるアクションが繰り広げられた点が前作の素人村人アクションとの大きな違いです。
ただメイキングを観ると分かるのですが、輸送船でのアクションはブライスが主導権を握ったわけではなさそうで疑問が残ります。
僕ごときの理解の範疇を超えてきたわけですが今回のアクションは全体として単調さの排除を実行していたと思います。
約30分という全体の尺を考えた時に1つ1つのアクションの尺は短いですがその中でも
生簀に沈むディン視点のアクション、サーモグラフィー、間抜けな帝国残党、墜落する船内、脳筋ベスカー特攻などなど
編集や展開(脚本)、カメラワーク、視点で変化に富んだアクション映像に仕上げ、そうすることで見飽きない常にワクワクするものに仕上げているなと感じました。
アクションの幅よりも見せ方の幅を広げたイメージですね。
ある意味ブライスらしく、新しい一面と言って良いのやら・・・。(自分で自分の首を絞めている典型例)
ボバフェット チャプター5「マンダロリアンの帰還」
IMDbで9.1を獲得。(2024年6月時点)
ボバ・フェットのスピンオフで1秒もボバが映らない回ですね。
別に、怒ってなんかないんだからね・・・。
ブライスらしさ
構図の魅力、観客に特定のイメージを想起させる説得力・・・・上手い・・・。
ディンがアーマラーとパズ・ヴィズラに再会してからは構図の素晴らしさが覚醒ですね。
背筋のゾクッとするような構図のオンパレードでヤバい。
パズ・ヴィズラがディンに決闘を申し込むときの手前にパズ、奥にアーマラーとディンっていう構図が1番好き!
そしてCMやドキュメンタリーのような鍛冶映像、ベスカーを雅に・・・艶めかしく・・・。
賞金首を依頼主に届けに行く際のワンカット映像、これも良い。
グローグーといないディンがどんな人間なのか、リアルな時間が流れるのでそれが即座に伝わるシーンで素晴らしい。
アーマラー達の下を去るディンの孤独とアーマラーの冷たさもなんでヘルメットしてんのに伝わるんだよ?!クソが!!!
風呂敷見て悲しむのもブライスだから出せるおセンチだね~。
新たな一面
N-1スターファイターの組み立てモンタージュと完成品お披露目シーンは好き嫌いが分かれそうですね。
僕にとってはワクワクが徐々に高ぶるのが好きなので最高のシーンでしたね。
全世界のSFオタク・乗り物オタク・ミリオタが呼吸できているか心配。
今回は飛行シーンの撮影ということで毎回種類の異なるアクション撮影してるね。
ドッグファイトも観てみたかったが、撮れないこともなさそう。
そして何より<千の涙の夜>、地獄絵図ですね。
ここまでで色々なアクション(銃撃戦・殺陣・爆撃etc.)と戦闘(戦争)描写を経験しているの面白いですね。
マンダロリアン S3 チャプター22「傭兵」
IMDbで6.4を獲得。(2024年6月時点)
豪華キャストによるエピソードで比較的評価の低いエピソードです。
擁護させてもらうと、ドロイドの扱い・とある惑星の繁栄・元帝国の生き方・分離主義思想etc.、SWとしてこのエピソードの持つ意味は非常に大きいと思う。
ブライスらしさ
本当にブライスが監督したんかってぐらいらしさが見えない話でした。
正直評価が低いのも納得。
らしさではないですがブライスが監督を任された理由を発見しました、俺でなきゃ見逃しちゃうね。(そんなことない図に乗るな)
カギとなるのは冒頭のロミジュリ的なクオレンとモン・カラマリの描写です。
男女の関係性の中での<強い女性像>の再構築をしていたのではないでしょうか。
プラジール15を統治するザ・ダッチェスとキャプテン・ボンバルディア、そして我らがボ=カターン・クライズとディン・ジャリン。
この3組の共通点は互いのリスペクトと信頼関係、そして対等な関係性です。
強い女性を描く時に、男性の否定や恋愛の否定とは単純で本質とは異なると思います。(怒られろ)
虐げられることなく自己を表現し、男性と対等に向き合っている姿を描くことで<強い女性像>の1つの正解を導き出していたのではないでしょうか。
真意は置いておいて、この3組に何かしらのメッセージはありそうですね。
結構ヤバいこと言ってる自覚はあるので内心ガクブル、癇に障ったらごめんなさい。
新たな一面
今回はミステリー調のお話でブライスの新たな一面を観られてうれしい反面、ミステリー苦手なのか?とも思った回です。
まぁマンダロリアンとミステリーの相性が悪いというのは否めませんがもうちょっとどうにかできなかったのかとは思いますね。
この経験から得たもの
このSWシリーズのスピンオフに携わった結果、3つの大きな糧となってブライスの監督生命に還元されます。
最高峰のスタジオ
ブライスはかつて Claudia Lewisの『M83』という楽曲のMVでSF作品を撮影していますが、本格的なSFを撮影するのは初のはずです。
さらにアクションを監督するのも初でしょう。
M83
人間ドラマが中心であったポートフォリオにSFとアクションが加わったのは大事ですね。
さらにハリウッドの中でも確実に最高峰に位置するルーカスフィルム(ディズニー)で監督をした経験は非常に大きいと思います。
テクノロジーや特殊効果、セット、特殊メイクなど技術的な面での最高クラスを活用できた経験は作り手として手札を増やすことになったのではないのでしょうか。
次の項目でブライスが『マンダロリアン』で出会ったテクノロジー、その名も The Volume について語るインタビューを引用しています。
ジョン・ファブローとの師弟関係
ジョン・ファブローの下で多くを学べたことが正直最も大きな収穫だったと思います。
ジョン・ファブローと言えば役者業に加え『アイアンマン』シリーズや実写版『ライオン・キング』、『ジャングルブック』日本でも人気の『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』などを監督している多才な人です。
マルチに活躍する点でブライスが手本とするには適任の人物かもしれません。
実際にブライスがジョン・ファブローについて言及する以下の記事では彼のことを「素晴らしい映画監督であるだけでなく、より良いメンター」であると発言しています。
さらに彼から学んだことは『Dads 父になること』でも活用されたようです。
He’s a brilliant filmmaker, but a better mentor — he just wants to share in the excitement and passion of filmmaking and what’s possible. Nothing about it that’s proprietary. It’s let’s push this forward and see what else can happen. I was doing Dads at the same time I was shooting Mandalorian and the stuff I was learning from Jon Favreau was completely applicable to a documentary”.
Bryce Dallas Howard on The Mandalorian, Dads documentary, more (ew.com)
では4度の仕事を通じて具体的に何を学んだのか見ていきましょう。
1 現場での姿
以下のインタビュー記事では、ジョン・ファブローの現場での姿について言及しています。
「何度もこのような場面があった。『これ良いね、ジョン。この方法でできそうだわ。』すると彼は『僕はこれが可能かどうかちょっと見てみたい。』そして試してみて、何度もそのような方法を発見する。『おぉ、凄い、これは機能するし、それにもっと良い感じになった。』。」
ジョン・ファブローの嗅覚の鋭さ、テクノロジーを巧みに利用する才能、可能性があるなら試してみる姿勢が垣間見えるエピソードです。
現場での臨機応変な対応はブライスに大きな影響を与えたのでしょう。
“Jon Favreau is known for pushing emerging technology forward. What he did with The Jungle Book, what he’s doing now with The Lion King, it’s really extraordinary what is possible because of these projects. There were so many times when I would be like, ‘Oh, it’s okay, Jon. We can just do it that way.’ And he’s like, ‘I just want to see if it’s possible.’ And then it’s tested, and way more times you find out, ‘Oh, wow, it is possible, and it’s better’. There was specifically something that we shot in what we called ‘The Volume’. And basically you step into it and you can’t tell that you are surrounded by LED screens and you feel like you’re wherever the story is taking place. It’s almost like – this is the wrong term to use, especially for this project – but it’s almost like a Holodeck.”
Bryce Dallas Howard Compares Filming ‘The Mandalorian’ To Being On The Holodeck (slashfilm.com)
技術的な面から『マンダロリアン』がSWの枠を超えて歴史に残る所以がこのエピソードに詰まっています。
The Volume について
この記事を参考にしています。
The Volume: How Star Wars Tech Is Changing the Future of Film (comingsoon.net)
端的に言えばLEDパネルで囲まれた没入型のサウンドステージです。
効率化の面や演技の面、リアルなカメラワークの追求など多くのメリットがあるようですね。
下の動画なんかが分かりやすそうでした。参考までに。
2 繰り返しの基本
下のインタビュー動画で語っていて非常に興味深いのはジョン・ファブローの根っこの部分です。
ブライスは彼のストーリーテリング及び映画製作における力強い明確な表現、非自己中心的なスタイルを非常に評価しています。
「彼は理解するのに難しいものを作らない」という発言はしっかりと観客のことを想定した非常に重要な要素であり、『アイアンマン』が傑作たり得た理由ですかね。
さらにジョンから学び『Dads 父になること』でも活用した方法について明かしました。
「彼のアプローチ方法はすべてストーリーを原点としています。いつもストーリーに立ち戻っています。
少し輝く面白いものに誘惑されたくなかったり、一日の終わりに良い物語を上手く伝えられたと確信したいならジョンが実行した基礎的なものがある。
確実なものにするため何度も何度も立ち戻り続けることで、私が『Dads 父になること』でも適用したものです。
継続的に立ち戻って見直すのずぅぅっと。ただ戻って見直すの。
ベストなものをすでに観たという前提ではなく、最初の選択を持ち続けるのでもなく、ただ続けて戻って戻って、うまくいけばより良いものが作れるように。
それが継続的にやり続けたことです。」
これは非常に面白いですね。
大筋を大切にしながらより良いものを作るために見直す、基礎という名のこだわりを持つことを学んだようですね。
3 貴重なエピソード
これは『マンダロリアン』の制作の舞台裏に迫るドキュメンタリー番組『ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン』の「メイキング・オブ・シーズン2」内の一幕です。
惑星トラスクで登場する船(水上)を撮影するシーンでジョン・ファブローとブライスの師弟関係が垣間見えます。
リアルに見せるために工夫を凝らそうとしたブライスはクレーンカメラを使おうとしたそうです。
それに対してジョン・ファブローは三脚を使うことを薦めました。
ブライス曰く「実際の海上でできない撮影はすべきじゃないの。それが映画作りの基本だとジョンはみんなに推奨している。」
リアルさを観客に伝えたいならば、その追求方法も限りなくリアルであるべきというところですかね。
これまでインタビューで語られてきた彼のマインドと一致するシーンでした。
ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン | Disney+(ディズニープラス) (disneyplus.com)
ディズニーからの信頼
ディズニーから信頼を獲得したことも大きな収穫です。
この監督の作品が視聴者にウケると分かればチャンスがもらえるのは当然でしょうね。
実際にディズニー制作でブライスの監督作品が企画中です。
作品は『ナビゲイター』(1986)というSF作品のリブートです。
進捗状況についてのアップデートはほぼ皆無ですが気長に待ちましょう。
おわりに
過去4度にわたって監督を担当したSWドラマシリーズの再考を通してドラマに表れたブライスらしさと新たな一面、この経験の意味を考えてみました。
どれだけブライスの主導で作品が仕上がったのかということに関しては疑問が残りますが、この経験の意味を考えた方がこの出来事を捉える上で面白いと思います。
ブライスの監督人生の大きな分岐点となったことは間違いありません。
監督としての彼女を知ったのは『マンダロリアン』という人は非常に多いでしょう。
ここでの経験、出会いは非常に価値のあるものでありこれからの監督人生に大きく影響すると思っています。
さらに成長した彼女の新作、リブート版『ナビゲイター』と2024末配信予定の『スケルトン・クルー』を気長に待ちましょうや。
ちなみに『スケルトン・クルー』ではスリリングな映像観れるんじゃないかと思ってワクワクしてる反面、ミステリーかぁ・・・となっています。
英文記事やインタビューについて誤訳等あったら申し訳ありません。
自信はないので信じないでね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
一旦このシリーズはお終いかな。
コメント