2022年秋日本で公開された映画『秘密の森の、その向こう』(原題:Petite Maman)。
『燃ゆる女の肖像』『トムボーイ』『水の中のつぼみ』などで知られる
フランスのセリーヌ・シアマ監督の最新作です。
今回はそんな『秘密の森の、その向こう』の感想を書いていこうと思います。
以下ネタバレを含みます。
作品概要
スタッフ
監督:セリーヌ・シアマ
脚本:セリーヌ・シアマ
衣装:セリーヌ・シアマ
撮影:クレア・マトン
音楽:ジャン=バプティスト・ドゥ・ロビエ
キャスト
ネリー:ジョセフィーヌ・サンス
マリオン(幼少期):ガブリエル・サンス
マリオン(大人):ニナ・ミュリス
ネリーの父:ステファン・ヴァルベンヌ
ネリーの祖母:マルゴ・アバスカル
あらすじ
母方の祖母を失った8歳のネリー。
両親とともに森に囲まれた祖母の家を片付けに訪れる。
その森でネリーはある少女に出会う。それは8歳の母マリオンだった。
感想
とにかく至極の73分間。
たったの73分、それがこの映画の上映時間です。
驚異的な短さに一抹の不安が出ることでしょう。
73分って・・・・なんか物足りなそう・・・・。
そんな不安は何のその濃厚で、優しく、温かく、そして愛おしい時間が流れます。
すべて愛おしい
常時微笑ましい映像のオンパレードなんですよ。この映画は
見所が多いと言うか好きなシーンがありすぎるというのが率直な感想です。
好きなシーンだらけですが、特に好きな以下のシーンについて書いていきたいと思います。
好きなシーン4選
この冒頭のシーンで一気にこの映画の虜になりましたね。
スナック菓子の食べ方(じゃがりこスタイル)が可愛いい。
お菓子とジュースを間髪入れず母の口に運んでからの、、、ハグっっっっ!!!!
子ども特有の無邪気さと可愛さに思わず母マリオン同様に頬が緩む。
祖母を失った母の哀しさを感じ取っての優しさのようにも思える素晴らしいシーン。
©2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
この映画の影の立役者はネリーのパパなんですよ!
優しくて誠実で、ネリーのことを本当にかわいがっている感じが良いです。
パパのひげを剃るという夢を叶えるシーンですが、物語上はあまり必要がないシーンだと思います。
なのに非常に印象的な温かいシーンで、この映画を表しているなと思える最高のシーンです。
母娘が物語の中心ですが、父娘の姿も蔑ろにしないところが大好き。
©2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
ステファン・ヴァルベンヌさん良い役者さんですね。
このシーンもまた味わい深いですよね。
劇中では現代の祖母は登場しません。なのでどんな人物だったのかはっきりとはしません。
ネリー目線でこのシーンを観た時に、ちょっとウルっときました。
祖母を失ってネリーも当然淋しいわけで、このささやかな交流が持つ意味の大きさは計り知れません。
©2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
このシーンなんか良いんですよ。
うまく言語化できませんが、画としても素晴らしい構図だと思いますし、母と娘が共に過ごした時間が目に見えるものとして表れています。
なにより肩組んでるところがなんか良い。
©2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
この映画ってなんか良いがひたすら続く作品なんですよ。
ちなみに本当の本当に1番好きなシーンは、バンバンボールみたいなおもちゃで遊ぶネリーのフルスイングです。
子ども目線を忘れない
常に子ども目線で物語が進んでいくな~という印象を受けました。
例えば冒頭病院のシーンや父に泊まりに行きたい旨を伝えるシーンで、
カメラは常にネリーの目線に合わせられています。
そして、子供の無邪気さや純粋さは勿論ですが、
子どもの敏感さや繊細さもしっかりと描かれていると思います。
マリオン(子)との会話からも分かりますが、
親の雰囲気を肌で感じ取っているんだなということがよく分かります。
映画のテーマ
この映画のテーマは何かって考えた時に色々思い浮かびました。
<親子愛><家族愛><友情><喪失><癒え>などがピンときます。
これらを独自の切り口で描くシアマ監督の脚本力には圧倒されます。
この映画は2つの”もし”を叶えています。
「もし、先立った人ともう1度会えたら。」そして「もし、親のことをもっと知れたら。」の2つです。
前者についてはネリーも話していましたが、
「この人と会うのは最後だ」と分かっているだけでその人との時間をいかに大事にできるでしょうか。
家族との別れを悟ったとき、あなたなら何をその人としますか?したいですか?
旅行に行ったり、おいしい料理を食べたり、遊園地に行ったりと特別なことは色々できるでしょう。
それをこの映画は”特別な日常描写”に止めています。
祖母との関係にフォーカスした時、
ネクタイを結んでもらい、クロスワードで遊び、一緒に食事をし、バースデーソングを歌う。
幸せって日常に転がっているのかな・・・と思います。
この映画の唯一の不満点は祖母とネリーの別れです。
最後だと思ってサヨナラするんじゃなかったんかい!ちょっとあっさりしすぎなように感じました。
自分と同じ年齢の時の母と数日過ごす。
この映画はたったそれだけです。
その間に見えてくる母マリオンの姿や母と祖母の関係、
母の笑顔や不安、自分の母親はこんな子だったんだと知ること、
同い年の母へなら言える色んなこと、
そして幼少期の母と過ごした時間の全てがかけがえのない思い出となってネリーのひとつになる。
こんな愛おしい映画があっていいのでしょうか。
そして母との別れと再会が訪れます。
現在のマリオンに何があったのかは全く描かれていないので分かりません。
空っぽの祖母の家に母と娘、
ラストシーンに必要なことは”あのひとこと”にすべて集約されています。
意外と〇〇〇映画
これ意外と飯テロ映画なんですよね。
飯テロ映画の定義はさておき、この映画に登場する食事は割と旨そうです。
以下にまとめます。明言されていないので独自に判断しました。
おわりに
今回は『秘密の森の、その向こう』の感想を書きました。
シアマ監督らしさありながら、過去作品と比べ優しい印象の作品でしたね。
多くの人に観てほしい作品です。
秋にぴったりの作品なので毎年観ることになるんだろうな。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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