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シェイクスピアの悲劇『マクベス』を原作とする映画4作品を徹底比較

映画

ウィリアム・シェイクスピアはイングランドを代表する劇作家・詩人です。

『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』、『オセロー』など名前ぐらいは聞いたことあるのではないでしょうか。そして彼の作品は後世何度も映像化されてきました。

そこで今回はウィリアム・シェイクスピアの戯曲『マクベス』を原作に映画化された4作品の感想&徹底比較していきたいと思います

同じ原作の映画を比較すれば、監督の特徴や描きたいことの違い、重視した点などの違いが顕著に表れて面白そうじゃん!って思ったわけです。

KUMA
KUMA

キャッチーなタイトルにするために徹底比較と書きましたが、ほとんど感想を語るだけです。ごめんなさい。

今回扱うのは以下の作品です。なお、選考基準は面白そうだったものの中で視聴可能なものです。

  1. ジョエル・コーエン監督作『マクベス』(2021年)
    • マクベス:デンゼル・ワシントン
    • マクベス夫人:フランシス・マクドーマンド
  2. ジャスティン・カーゼル監督作『マクベス』(2015年)
    • マクベス:マイケル・ファスベンダー
    • マクベス夫人:マリオン・コティヤール
  3. ロマン・ポランスキー監督作『マクベス』(1971年)
    • マクベス:ジョン・フィンチ
    • マクベス夫人:フランチェスカ・アニス
  4. 黒澤 明監督作『蜘蛛巣城くものすじょう』(1957年)
    • 鷲津 武時:三船 敏郎
    • 鷲津 浅芽:山田 五十鈴

『マクベス』(’21年)を最初に観たのでそれが基準になっています。
また『マクベス』(’21)→『マクベス』(’71)→『マクベス』(’15)→『蜘蛛巣城』の順で1度目は観ました。

全編通して素人の戯言ざれごとですので悪しからず。

ネタバレ注意です。

『マクベス』(2021年)

© 2021 Toil and Trouble Rights, LLC. All Rights Reserved.

感想

美しく洗練された、限りなく演劇に近い映画

演劇要素

この映画観た人の気持ちを代弁するなら

「映画っていうより舞台っぽい」

独白の異常な多さライト(照明)の使い方などなど随所に舞台(演劇)臭がします。

晩餐中にマクベスが暗殺をためらうシーンで、暗殺を行う事への迷いを口にすると、パーティーの光がマクベスの顔に注ぐ。
暗→明という照明の切り替え、セリフと心情が照明と対応していて印象深いシーンです。

またバンクォーの独白のシーンにて、いわゆるスポットライトを当てるってやつですね。
他にもシルエッットを強調する描写や異常な光の強さ明転・暗転など本当に演劇を鑑賞しているかのように感じました。

現実か?非現実か?

他の3作品に比べて明らかに胡散臭い!!!!

どこかつかみどころがなく夢かうつつか?不思議な感覚に陥る。

こんなふうに思うのはモノクロだからという理由だけではないなと思います。

まず時間経過の早さが異常ですよね。

少し会話しているうちにおそらく数時間は経過しているでしょう。

晩餐のシーンやインヴァネス(マクベスの居城)でバンクォー親子と会った時、マクダフ一家襲撃時など、時

間が経ったことが伝わるようなカットじゃないんですよね。

異なる時間経過の出来事が同時に発生している感覚です。(伝われ)


異質なセットもそう感じさせる一因です。

一般的にイメージするヨーロッパのお城のイメージとは似ても似つかない。

豪華さはなく、直線と曲線による無機質な造り。さらに内装も質素。普通なら絵画や棚などあってもいいはずなのにベット1つ・・・・。

城の造形と生活感のなさが、洗練されたモノクロ映画と異様にマッチするし、異世界に来たように感じられました


撮影は全編セットで行われたそうです
それで納得がいきました。妙に作中の建物や場面の全体像・周辺が掴めない理由に

見える部分が限定的で気持ち悪さを感じました。はっきりしないために、それらが実際に存在しているという確信が持てなかったんだと思います。

美的センス

この美しさに脱帽!!!!
いやもう本当に美しいです。美しいっていう言葉を二倍にして、さらにそれを二倍にしても足りない。

まず独特な城の造形を生かした構図、そして光と影の美しさはモノクロゆえに生み出せたんでしょう。

KUMA
KUMA

暗殺を実行した翌朝、王を起こしに来た臣下2人の前にマクベスが現れるシーンは特に美しかったです。

あとは音ハメも気持ちいいですね。

『マクベス』(2015年)

© STUDIOCANAL S.A. /CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

感想

唯一無二のマクベス像!と色鮮やかさ!

アクションのサンドイッチ

他の3作では、冒頭の戦争は言葉による言及のみにとどまっていましたが、今作では冒頭のシーンでめちゃくちゃ野蛮な戦闘をみせてくれます。

スローを用い、混戦の臨場感を味わえました。掴みとしては4作中ナンバー1!

一方、ラストのアクションはあまり好みではありませんでした・・・・。
ハッキリ言って観にくい・・・。これに尽きる。

妙なクローズアップやオレンジの画面、スローによる冗長さ、好きではないです。

荘厳でカラフル🍊

荘厳さはすごい良かったと思います。

荘厳さという観点では4作品の中でトップクラスでした。
どこかの大聖堂でしょうか。何十メートルあるんだっていう巨大な王宮は圧巻でした。

鮮やかなオレンジ自然が合わさることで生まれた壮大なカットは素晴らしかったです。
僕はラストのオレンジよりも冒頭の朝日(?)のシーンの方が好みでした。

『マクベス』(1971年)

©1971, renewed 1999 Columbia Pictures Industries, Inc.
and Playboy Entertainment Group, Inc. All Rights Reserved.

感想

忠実かつ「凄惨な」マクベス

目に焼き付く描写

良くも悪く・・・・・も目に焼き付く、忘れられない描写が多かったです。

良い方は、ラストの山場であるアクションシーンです。

複数の敵兵を相手に赤子の手をひねる様な余裕を見せ、その後マクダフとの決闘に臨みます。
引きの画と長回しによる緊張感たっぷりのシーンでした。
この時のマクベス(ジョン・フィンチ)が放つ威圧感は異常で忘れられません。


「もう、やめてくれぇ~~~」と叫びたくなるグロテスクな描写の数々・・・・
首吊り、バンクォーの霊、子どもへの容赦なき描写、何十人もの魔女に囲まれるシーンなどはトラウマ級でした。

KUMA
KUMA

やってくれたなポランスキーこの野郎!ってなる

情け容赦のない暴力描写はマクベスの、ひいては中世ヨーロッパの、凄惨さを見事に描いていたと思います。

丁寧な作品

『マクベス』(’21)は登場人物が全員詩人でした。

比喩を多用した詩的なセリフで構成されていたために、直接の描写がないところは、初見の人や『マクベス』に触れていない人にとっては難解でした。

それに比べ『マクベス』(’71)は映像描写により丁寧に説明されています。
例えばマクダフの生まれ、マクベス夫人が手を洗う理由などすごく分かりやすかったです。

また、中世スコットランドの生活がとてもリアルに感じました。

素晴らしい衣装・鉄の鎧・要塞城はもちろんですが、身分の高い者が良いベットで眠り、その他の人々が藁のようなものの上で寝る描写はすごく現実的に感じました。

『蜘蛛巣城』(1957年)

©1957 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

感想

戦国絵巻!その名も魔苦部須マクベス

アレンジ

この作品は他3作品と一線を画します。というのもアレンジが最も顕著だったからです。

しかし大事なことは、それでもこの作品が原作『マクベス』の本質を損なっていないところです。

削ぎ落しをしつつも付け足しを十分に行っていますね。

マクベスは一国の王でしたが、今作は諸侯に近しい立ち位置でしょう。
時代劇にするためにマクロな物語にしていますね。

拡大解釈かもしれませんが、大殿や三木義明の暗殺を直接描写しないのはラストを引き立たせるためではないでしょうか。

自動的に描かれていない部分を補完していたので、初見やマクベスを全く知らない人には難しいかも。

見応えしかない映像

以下は観ていてニヤニヤが止まらなかったところです

冒頭、霧の中から姿を現わしては消え、現わしては消えの繰り返しは良かったです。
馬の蹄の音と甲冑が揺れる音が最高でした。

蜘蛛の巣城に到着した時の三木と鷲津が殿様の前まで闊歩してくるシーン。

大勢の歩兵と騎兵がブワーーって動くダイナミックな映像。

静寂からの騒然という落差ある演出。

部屋の前後左右を目一杯活用する演出。

森の中から映される追走劇!

KUMA
KUMA

あのラストは歴史に残る名シーンじゃないでしょうか。マジでどうやって撮ってんねん。矢の音と勢いよく壁に突き刺さる!最高ですわ。
大殿や三木の暗殺を直接描写しなかったため、よりラストが際立ったと思います。

比較

魔女について

内容に関する細かな違いはたくさんありますが、その中で魔女について簡単に比較します。

『マクベス』(’21):魔女は3人もしくは1人。考察の余地あり。

『マクベス』(’15):魔女は4人。少女と若い女性、中年女性、高齢女性。

『マクベス』(’71):魔女は大多数。最初は3人だったが、後に大量発生。

『蜘蛛巣城』:魔女(妖婆)が1人。

<森の表現>の違い

『マクベス』(’21)の<森の表現>はやっぱり美しい。

僕が言いたい<森の表現>は、王子率いる兵士が木の枝を掲げたカワイイシーンではなく、マクベスが窓を開けた後の一連のシーン。

巨大な窓から入り込む大量の葉。そして玉座の間の左右には森が突如出現

思わず「おぉぉ」と言ってしまった。これ多分<森の表現>だよね?自信はない

抽象的で暗喩的な表現に脱帽も脱帽。

© 2021 Toil and Trouble Rights, LLC. All Rights Reserved.

『マクベス』(’15)はその表現自体より、それによって引き起こされる色味が良い。

これはおそらく、木の燃えカスが飛んでくる=森が迫る、という意味だと思う。多分。

これ自体は何とも思わなかったけど、その結果画面がオレンジ色に染まった。これは良い。

『マクベス』(’71)は中々面白かったです。

本当に山の上で森が動いていて面白かったです。本当いリアルでした。

ただ少しネタ晴らしが早かったような気がします。

『蜘蛛巣城』はとても衝撃的でした。

数本の木と霧が画面いっぱいに!

煙の演出とモノクロ映画ゆえに正体が掴めず、(本当に人が潜んでいるとしたら)全く人が見えない。

鷲津武時と視聴者に恐怖を与える木の行進!!!

©1957 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

マクベスとマクベス夫人

4作品を通して4人のマクベスとマクベス夫人を観ました。それを観て僕が感じたそれぞれの違いを書いていこうと思います。

マクベス

デンゼル・ワシントン
デンゼルのマクベスは最も感情を機微に演じていたように感じました。人としての弱さや己の行為に対する葛藤、恐怖、後悔が伝わってきました。

さらにそのような弱い部分を見せつつも、暗殺の際の冷たさ、玉座に座る時の存在感は流石だなと思いました。

マイケル・ファスベンダー
まさに怒れる狂人でした。次の瞬間何をしでかすか分からない危うさがある人物に映りました。

弱さを見せる時にも常にヤバさが纏わりついていました。
特に暗殺完了後の興奮した感じはサイコパスシリアルキラーのそれでした。

ジョン・フィンチ
当時20代ということもありどうしても若さを感じずにはいられませんが右肩上がりにヤバくなっていく様(語彙力)は圧巻でした。

そして終盤の存在感で言えば頭一つ飛びぬけていました。

三船 敏郎
やはり他のマクベスとは大きく異なると思います。誇りや忠義心の高さという点で、他にはない武士道のようなものを感じました。三船さんらしいです。

勇ましさ溢れる凛々しい表情から恐怖におびえる際の血の気の引いた表情、という表情の高低差が最高でした。
最後の演説もめちゃくちゃ迫力ありました。

マクベス夫人

フランシス・マクドーマンド
悪女であり恐妻という印象を受けました。全くもってなよなよしさを見せない、気をしっかり持った”強い人”という印象を受けました。

マクベスが持ち帰った短剣を見て焦るどころかブチ切れるシーンは笑っちゃった。
気が触れた時の悪魔に取りつかれたような目力ある演技は本当に怖かった。

マリオン・コティヤール
唯一彼女には恐怖みたいなものを感じませんでした。
それの良し悪しは置いておいて、悪女として描いていなかったのではないでしょうか。
夫マクベスと無き子を思う妻と母という面が非常に強調されていたと思います。

フランチェスカ・アニス
弱々しい女性という仮面の下に狡猾さや腹黒さを隠している悪女という印象を受けました。

夫に暗殺を促す、というよりねだる様子には思わず「怖~~~」と呟きました。
また錯乱時の幻覚を見ている演技も凄く良くて、すごく気の毒でしたね。

山田 五十鈴
この人が1番怖かったです。なぜなら表情ひとつ変えず恐ろしい事を言うからです。

さらには観ている側からすれば屁理屈だと一蹴できるような内容でありながら言葉巧みに人を操る狡猾さ、すごい台詞回しですね。
白塗りメイクも効いてるね。

マクベスの最期

まず言っておきますが、全作品悲劇でした。しかし、それは魔女の予言を皮切りに最終的に破滅を迎えるという『マクベス』のプロットに対する悲劇です。

そこでここでは各作品のラスト、すなわちマクベスの最期、に注目してどれが一番悲劇的に思えたかを書きます。

『マクベス』(’71年)が最も悲劇的でしたね

一騎打ちの結果、首を落とされたマクベス。敵に囲まれながら勇敢に戦った彼には、称賛を送ってしかるべきだ。

しかし周りの兵士は彼の首を見て嘲笑った。その後首は天高く晒されます。
人間の醜さを感じる非道さ。これには流石の僕もウエっ!でしたね。


次に悲劇的だった最期は『蜘蛛巣城』です。

味方からの矢を大量に浴びる。どんなに逃げようとしてもやぐらには逃げ場などなく格好の的。まさしく八方塞がり。

首に矢が刺さるも即死に至らず。しかし刀を抜いて戦って最期を迎えることすらできない。


次は『マクベス』(’21)です。

これは悲劇というより皮肉の側面が強いと思いました。
マクダフとの決闘中、頭から落ちた王冠を拾い上げた時に生じた隙をつかれ、マクベスは首を落とされました。

マクベスが今の最悪な状況にいるのは全て王冠のせい。王冠さえ欲しなければ・・・・。
王冠に固執したマクベスは、ついにそれを乗せる頭を失いました。


最後は『マクベス』(’15)です。

ラストに関しては良いとは言えない。はっきり言って意味不明。

直前で「自刃しない」と言い放っておきながら、自刃に近い最期。「参ったは言わない」と言いながら、それを言ったような態度。しかもマクベスをなんか認めた雰囲気で物語が終結する。

KUMA
KUMA

なんでやねん!おぉぉい!マクダフ!お前さんよ、子どもと奥さん火刑にされてんだよ。もっと残虐にやっちゃえよ。なんでマクベス認めた感じにしてんだよ。甘いよ。

王子!お前もだぞ!親父さん寝込み襲われてんだよ!本当にお前ら船降りろ。

ポジティブに捉えると

落ち着いてポジティブに考えてみて以下のようになりました。

序盤で死んだ少年兵を何度も思い出す点と自分を倒せる相手に出会えた点を考慮すると、彼は争いに対する虚しさや悲しさ、そして嫌気を感じていたんじゃないのだろうか?

「死ねるなら死にたい」そう心の奥では思っていたが、予言によれば普通の者には自分は倒せない。

止まりたくても止まれないという中で、自分を倒せるマクダフの出生を知り、それが彼にあのような行動をとらせたのかな。

と考えてみれば何とか自分の中で納得いく答えが出たように思います。

どれがおすすめ????

4作品観てみると結構違いがあって面白かったです。
このような鑑賞スタイルもアリかなと。

どれがおすすめ????

マクベスを知らない人なら
→『マクベス』(’71)か『マクベス』(’15)

怖いものみたさなら
→『マクベス』(’71)か『マクベス』(’21)か『蜘蛛巣城』

アクションなら
→『マクベス』(’71)か『蜘蛛巣城』か『マクベス』(’15)

ストーリー以外を重視なら
→『マクベス』(’21)か『蜘蛛巣城』

古いのは苦手で
→『マクベス』(’15)か『マクベス』(’21)

エンタメ性なら
→『蜘蛛巣城』

クセの強さなら
→『マクベス』(’21)

って感じかな。

どれもクセはあるので一概には言えないですが、ポランスキーの『マクベス』(’71)は結構おススメですね。長いしグロいけどクオリティが凄いし。

コーエン監督の『マクベス』(’21)は、ストーリーやエンタメ性は欠けるので人を選びますが、監督の遊び心や演技、美的センスが凄いので個人的には一押しです。僕は一番好き

黒澤監督の『蜘蛛巣城』は古いし時代劇なので敬遠したくなると思いますが、エンタメ性が群を抜いているので是非!というか黒澤映画は全部観ましょう!

『マクベス』(’15)は個人的には色々宙ぶらりんで楽しめなかったのであまりおすすめはしません。でもキャラクターの描き方は面白いので是非!

おわりに

大分ボリュームのある内容でした。長くなって申し訳ありません。

比較して観ると色々と違いが面白かったです。
大筋は同じでも監督や役者が違えばここまで違うのかと思いました。

興味を持ったら是非ご覧ください!!!!

最後までお読みいただきありがとうございました。

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